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第1話風の音がジャマをしている

――チャイナがペコとスマイルの打球音を聞くシーンは、全編を通じても珍しい複雑なカメラワークを使っています。
湯浅 TVだからあまり無理なカメラワークを使わないようにはしていたんです。でも、あそこは原作を読んでいても、一番カッコいいところの一つなのでちょっと目立つように演出しました。第1話は、あそこが一番の胆で、サブタイトルにもしたセリフ、「風の音がジャマをしている」がポンと入るのがすごくカッコいいところなんですよね。だからスタッフには、「第1話はこのカットだ」って話をしていました。「第1話はこのカットさえ上手くいけば、なんとかなる」って。カメラワークも、CG担当のサトウユーゾーさんにあれこれ考えてもらって3DCGになっている校舎もちょっと丸みがあって、背景とも違和感ないような角度でいい具合に見えるようになっています。
――この話数に限らず『ピンポン』にはカッコいいセリフが多いですよね。
湯浅 第1話はカッティングでセリフの後にサブタイトルを入れてみたらいいあんばいになったので、サブタイはアイキャッチのようにいいところでポンと出すようにしました。第1話に限らず、タイトルにセリフを使ったのは、やっぱりセリフがかっこよかったから。松本さんのセリフって、意外と短いんです。普通は小説やマンガのセリフって削らなければ絶対入らないんですけれど、『ピンポン』はわりと入ってしまう。それだけに、逆に削る部分はかなり気を遣いました。本当は全部入れたいんですけれど、カッティングで尺を調整しながら、どれも惜しいなぁって思いながら削りましたね。
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第2話スマイルはロボット

――小泉とスマイルの勝負が描かれます。
湯浅 最初はインターハイ予選が始まる第3話までいかないと盛り上がらないかなと思っていました。でも、第2話は月本がロボットであることをはっきり打ち出すということと、小泉との勝負があり、作っているうちに意外と盛り上がりそうだなって手応えを感じました。原作と変えたのは小泉がバタフライジョーに言及するタイミング。ちょっと早すぎる気がしたので、もうちょっと後にとっておくことにしました。後で改めて実写映画版を確認してみたら、やっぱり実写映画版もバタフライジョーの話題を出すのは後回しにしていて、同じようなところを気に掛けたんだなと思いました。あと第2話は、演出の伊藤(秀樹)さんがスライド(キャラクターを動かさないままスライドさせる演出)を多用したんですよね。それを見て「あ、意外にスライド使える」と思ったので、そこからいろんな形でスライドを入れるよう意識的に絵コンテを描くようにしました。
――『ピンポン』では原作のコマの分割を参考にした画面分割の効果もよく使われます。
湯浅 画面分割は分割にする分、作業はめんどうになる部分もあるんです。でも、アクションそのものはあまり長く描かなくてすむメリットはあるんです。それから見せ方についても、コマを一つずつ消していくとか、逆に増えていくとか、いろいろな見せ方ができる。コマの中の動きについても、ずっと動かすのか、1回動いたきりなのか選択肢がいろいろあって、実験をしながら面白いと思った手法をよく使うようにしていきました。画面分割の見せ方は、ある程度は担当の各話演出にお任せしました。終わったコマが残っているのが嫌じゃなかったらそのままでいいし、嫌だったらフェイドアウトさせてもいいし。だから、いろいろな見せ方が出てきましたね。
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第3話卓球に人生かけるなんて気味が悪い

――第3話ではインターハイが始まります。
湯浅 第3話は画面分割が一番ピークに達した話数ですね。第1話はそんなに分割していなかったんです。それで第2話で積極的に始めて、第3話はちょっと行きすぎた(笑)。なので第4話以降からはまたちょっと減っていきます。第3話では、トイレでドラゴンとアクマが会話するところで、ドラゴンのまわりにアクマの顔が次々出てきて喋るくだりは、画面分割がおもしろく使えたかなと思いました。マンガ的な見せ方というか。第3話の演出の荒川(真嗣)さんは、今動いているコマに視線を集めたいので、終わったコマは消したり色を抜いたりしてますね。インターハイが始まる時に全面にコマ並べてPANしたりと、3話は画面分割のピークです。
――カメラがトラック・バックしながら体育館で練習をしている風景をとらえるところは、Flashで制作したそうですね。
湯浅 Flashを担当したのはスペイン出身のファンマやアベルを中心にしたサイエンスSARUのチームです。以前、フランスの会社で仕事をした時に知り合いました。『ピンポン』に入る直前に『アドベンチャー・タイム』(カートゥーン・ネットワークで放送中のアメリカ製アニメ。湯浅監督はそのうちの1話「「食物連鎖(Food Chain)」を担当)を一緒に制作しました。Flashはシンプルなアニメーションをつくると、手描きよりきれいにできるんですが、難点は、パーツがバラバラで切り紙アニメっぽくなってしまうんです。でも、彼等の技術はそれが手描きにしか見えないんです。さらにチームの一人が卓球がうまい(笑)。それで参加してもらって、第1話のスマイルのメガネからカメラを引いていくところとか、今回の体育館でカメラを大きく引いていくところとかFlashでしか出来ないシーンを中心にやってもらいました。そういうカットは作画でやろうとすると難しいんです。動画の詰めがうまくいかないとスムーズに見えなかったり、体育館のようなカットでは物理的に相当大きな絵が必要だったり。それがFlashでは自然にできる。あとコピー&ぺーストでキャラクターを増やすこともできるので、モブシーンでも力を発揮してもらいました。
――キャラクターに目を転じると、江上くん劇場も第3話からですね。
湯浅 (笑)。それまでは原作に忠実に進んできたんですけど、第3話ラストで江上くんを持ってきたことで「これからは江上くん、フィーチャーするぞ!」みたいな気持ちになりました。この時点では最終回まで出すかどうかは決めていなかったけれど、とりあえず次は海で出そうと決めてました。
――第3話はほかに、チャイナにあっさり負けてしまうポーくんとポーくんの彼女も印象的です。
湯浅 あの2人は、荒川さんが特にこだわっていました。アフレコの時に「ギャグっぽくならないでほしい」という注文をさんざんいっていて。僕はOKかなと思うテイクでも、「もっと普通に」ってやり直しをお願いしてました。結果、よかったですね。実写によくあるやり過ぎ感をギャグにする方向とはまったく別ベクトルで、リアリティの中のギャグになっていましたね。
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第4話絶対に負けない唯一の方法は闘わないことだ

――インターハイ予選後半戦です。
湯浅 僕は絵コンテを描きながら第4話が一番おもしろくなるんじゃないか、と思っていたんですよ。牛尾(憲輔)さんにドラゴンの音楽は笑えるくらい超人的にすごいやつにしてくれってお願いしたら、実際にそういう曲が上がってきたので(笑)、「これはいける!」と思いました。一方、制作状況でいうと、卓球を含めた作画とかは、慣れるまでまだちょっと苦戦していた時期でもありますね。
――アクマがペコに勝利するのもポイントです。
湯浅 このアクマ対ペコの試合は、独自に卓球の試合を組み立てられたと思います。あそこでアクマがロビングをやってペコを苦しめるというのは、卓球の勉強をしてきたかいがあって、すごくアクマっぽい戦い方になりました。
――海王の設備に言及され、すごく近代的な設備であることもわかります。
湯浅 第4話は実は時間が余ったんです。それで海王の設備を延々としゃべるみたいなことになって、ちょっとギャグみたいになっていますね。……というか、ふざけてはいないけれど「どんだけだよ!」と突っ込んでもらえればいいと思ってやってました。
――尺が余ることもあったんですね。
湯浅 各話ごと、一応ここまで描くっていうエピソードの区切りは決めているので、絵コンテを描きながら足したり引いたりして調整をしていったんです。それでもやっぱりばらつきは出ましたね。本当に尺が足りなくなったのはこの後の、第6話、第7話、第8話です。第4話はインターハイ予選終わりまでって決まっていたので、試合をやり終わったところで珍しく時間が余ってしまったんです。
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第5話どこで間違えた?

――第5話からはオリジナル要素も増えます。
湯浅 第4話で盛り上がったラストに百合枝が登場して、原作ファンが「アレッ?」ってなったあとに続く感じですね。“原作通りでおもしろい”っていってくれていたであろうファンがどう反応するかわからない、第5話、第6話、第7話の始まりでした。いちおう第5話の場合は、アクマがスマイルに勝負を挑みに行くところが原作のエピソードなので、そこが押さえになればなとは思っていました。
――ペコが女の子と海で遊んでます。
湯浅 やっぱ高校生だから、そこは女の子と遊びにいくようにしたいと思ったんです。ペコはたぶんあの子にそんなに気があるわけではないんでしょうけれど、遊びが好きでそっちに流れているという。ただ、後で聞いたらペコ役の片山(福十郎)くんは結構ゲームセンターでゲームやってたっていうんですよ。それを知っていれば、原作みたいにゲームセンターで遊んでいるペコが膨らんだかも知れないです。僕があまりゲーマーというのがわからなくて、舞台を海に変えたところもあったので。片山くんに合わせて、ゲームセンターもなくはなかったなって。
――ペコのモニタが割れた携帯というのもインパクトあります。
湯浅 前から出して見たかったんですよ。モニタが割れているのって、気にしない人は気にしないんですよね。たとえば、ウニョンさんの携帯もモニタがバキバキに割れている(笑)。ほかの人からみると「何それ?」みたいな状態なんですけれど。ペコもきっと気にしないだろうなと思ってそうしました。
――アクマが片瀬高校に乗り込む時に、片山さんの鼓が入ります。
湯浅 原作に、乗り込んできたアクマを小泉が新撰組の隊士にたとえるセリフがあるんですけれど、やや唐突かなぁと思っていたんです。それでどうしようかなと考えていたんですが、片山さんの鼓を使いたいと思っていたので、ここにハメればいけるかなって思ったんです。乗り込む前に鼓を使ってちょっと特別なシーンを作っておけば、そこが上がりすぎていることで、そのあとの会話の違和感が無くなるだろうと計算しました。
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第6話おまえ誰より卓球好きじゃんよ!!

――チャイナにカラオケをさせたのはどういう理由だったんですか。
湯浅 辻堂のみんなと仲良くなっていくというシーンを作りたかったんです。本当はカラオケにいくまでの、積み重ねも描きたかったんですが、時間の都合で全部カットしてしまって。かろうじて一緒にワンタンを作ってるシーンが残っているんです。それでこのあたりの絵コンテを描いているうちに、クリスマスを舞台にすればいいんじゃないかと思い付いたんです。でチャイナに2コーラス目まで歌わせて、その時にキャラクターを全員スケッチすればうまくまとまるだろうって。やっぱりクリスマスって、『ピンポン』の卓球ばっかりやっているキャラクターたちからすると対極にあることなんで、そこで対比をつくるのがいいんだろうなって。
――点描されるキャラクターの中に、大田が入っているのがいいですよね。
湯浅 大田も、若い頃はそんな興味なかったキャラクターなんですけれど、改めて見ると『プレイボール』の田所と似たポジションなんですよね。田所は弱小野球部のキャプテンなんだけれど、ほどほどに楽しんでやりたいと考えてた田所と、入部してきやり手の主人公と意見が合わなかったりするんです。「俺たちあそこまでやれないよな、うちの手伝いもあるし」って、そういうところに共通したリアリティがあるなって思ったんです。大田はきっと片瀬の中で田所みたいなんだろうなって思ったら理解できたんです。
――一方、真田のカットではベッドの脇にティッシュがころがってました。
湯浅 高校生が主人公だし、もっと性的なニュアンスも入れたいと思ったんです。とはいえ、松本さんのマンガだからなって自粛していた部分もあって。でも、お会いした時に「湯浅さんならやるんですよね?」って言われて(笑)、期待されているなって思ったんです。ただ入れようと思っても、実際にはなかなか入れづらかったんです。それで目をつけたのが真田。真田には申し訳ないけど、真田が一番普通の高校生だろうって、そういうカットを作りました。ただもともとのキャラとはちょっと違ってはいるんで、心配になって松本さんにメールを送ったりして。
――返事はどうだったんですか?
湯浅 アニメはアニメ、原作は原作なので自由にしてください、というお返事でした。ドラゴンは卓球だけに集中できてますけど、やっぱり好きな女の子もいて、部活もあって、そこを行ったり来たりしているのが普通の高校生かなと。ああいう入れ方するとギャグっぽくなってしまうんですけれど。でも入れないよりも何かあった方がいいと考えました。
――第6話は人気のある話数ですよね。
湯浅 前後ではっきり別れて、クリスマスのシーンとアクマとペコのいいシーンがセットになってる構成なんですよね。一番この話数が、ふわっと松本作品から外れている雰囲気もあるんですけど。でも、それがいいと思ってもらえたらうれしいですね。それがアニメ『ピンポン』のバランスのような感じがします。
――海に入ったアクマが叫ぶところは顔がおもしろいですよね。
湯浅 原作でああいうコマがあるんですよね。松本さんって、たまにわざと崩れた絵を描く時があるんです。最終話でオババが、出かけていくスマイルがドラゴンに「オーイ」って声をかけているところなんかも、わざと絵を崩して描いてる。ほかにもオババが急にタヌキみたいになっていたり、月と星のマーク同士が会話しているみたいなコマ割りとか。松本作品を読んでいても、なかなかそういう部分は見落としちゃうところを、推していこうというのが今回のテーマでもあるので。『ピンポン』って真面目なばかりじゃないんだよって。
――川を流れていくペコを矢印で指しているのも笑えました、
湯浅 原作は橋で飛び降りるシーンと海へ行くシーンの二つあるんですよね。それ一個にしちゃったので、川から海へ流れていくっていう流れが必要になったんですよね。で、流れているところは矢印をつけないとわからないだろうなぁと。もともと、橋の上でしてる会話は、原作では海でしている会話なんですよね。
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第2話イエス マイコーチ

――スマイルと小泉のエピソードです。
湯浅 なぜスマイルがコーチのところへまた戻ってくるのか。最初に原作読んだ時は何も違和感がなかったです。でも改めて監督するにあたって読み直すと、ちょっとよくわからなかったんですよ。で、いろいろ考えたんですが、スマイルはペコを待っているんだけれど、それだけじゃないんだよなって思い至りました。スマイルの中に父性を求める部分もあるよなって。そう思って読み直すと、オババがちゃんとセリフで説明しているんですよね。両親は早くに別れて、母親も夜も遅くにしか帰らないし、力強く愛してやらなきゃ不安になるって。セリフでさらっと触れられているだけだから、全然意識に残らなかったんだなと。それで第6話で家に帰って一人でいるスマイルを前もって絵にしておいたんです。絵にするとベタな印象にはなりますが、深く残りますから。
――小泉はどうでしたか?
湯浅 小泉も面白いんですよ。子どもがいるって原作で言ってるけど、とても子どもがいるようには見えないんですよね。月本に対するオドオドした態度の取り方は。そこがおもしろかった。あとは小泉とオババの関係ですね。オババが小泉に「愛してやる気がないなら、一切手を引くんだね」なんていうところは、ちょっと昔を感じさせますよね。アフレコの時はサラっと聞いてしまったんですが、聞き直すと、そのサラっとしている分だけいろいろ感じられて野沢さんすごいなと思いました。
――ベタというお話が出ましたが、今回は間口の広い語り口を目指したのでしょうか。
湯浅 ポピュラリティあるものを作りたいっていうのは『ピンポン』に限らないですけどね。だんだんそういうふうに考えるようになってきました。僕も原作が好きだから、本当は原作のままでいい気もするんです。でもやっぱり新たにTVアニメで見る人のことを考えると、もっと見やすい方がいいし、今の感じになってた方がいいし、新しいものが入っていた方がいいと思うんですよね。
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第8話ヒーロー見参

――オリジナル要素の多かった第5~第7話を経ての第8話です。
湯浅 松本さんに第6話、第7話のプロットを見せた時、「これ、入らないですよね?」って言われたんです。自分でも盛り込みすぎかなとは思っていたんですが、そうしたら案の定やっぱり入らなかった(笑)。それで第8話の冒頭で百合枝が怒っているシーンがありますが、あれは第7話のバレンタインのエピソードの続きなんです。話数をまたいだので、なんで怒っているか、ちょっとわかりにくくなってしまいました。
――第8話からクライマックスに向けて、映像もぐっと力が入ってきます。
湯浅 第8話は、演出の許さんがすごく安心してお願いできる人でした。エピソード的には、チャイナにすぐには負けてほしくなくて、1回かっこいいところを作ってあげたかったんです。でないと1年前に負けて、ワンタン作ったりカラオケばっかりして、結局また負けちゃう、みたいに見えちゃうので。チャイナにもチャンスがある感じにしたかったんです。そういう意味では試合もちゃんと盛り上がって。ちょっとお母さんの件も入れられたし。原作の展開の中でうまく足し算できたのかなと。
――素朴な質問ですが、指先でボールを回したり、回したボールをラケットにはわせたりするのは、よくやられることなんですか。
湯浅 練習方法でボールを回転させて動体視力を鍛える、というのがあるそうです。やり方は卓球取材に協力してくれた北脇(慶亮)さん選手から教えてもらいました。ただ、練習としてはすごくポピュラーな感じではないので、チャイナが教えるぐらいがいいのかなと思って採用しました。回転は僕も練習しましたけど短い間ならできますよ。時々落としたりするんですけど(笑)。やってみるとわかるんですが、本当にラバーって強烈な回転がかかるんだというのが実感できます。あとボールをラケットにはわせるのは、世界ランク1位だったティモ・ボル選手がやっているCGっぽい動画があるんですよ。簡単に移動させるなら北脇さんもできるっていうので、ならばやらせようと。アニメなんでちょっと盛り気味にはなっていますが。あいいう技を最初に見せて、相手を威圧するらしいです。
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第9話少し泣く

――第9話は準決勝の様子を軸に進展します。
湯浅 第6話で、僕の予定しなかった曲が選曲されてすごくよかったので、第9話の後半もそれを前もって意識出来てたのでうまくいきました。第9話の後半ラストです。ペコの回想から会場へ向かう流れ。6話の最後、自分だったらあんなに短いシーンで意気揚々とした曲はつけられないだろうと思っていたんです。もうちょっと感動系で引っ張ったんじゃないかと。でも、その短い中で上手く上がる音楽を入れて勢いをつけるんだっていうのがすごくいいと思って。ここでよくイメージを切り替えてきたなぁって。それ以外のところでも盛り上がる曲とか、早めからガンガン行っちゃうとそれで意外とシーンが立つということがわかりました。そのあたりの選曲の仕方は、すごく勉強になりました。
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第10話ヒーローなのだろうが!!

――湯浅監督も第10話を演出したかったそうですね。
湯浅 『ピンポン』は、やっぱり第10話というか、ドラゴン戦でしょう(笑)。試合シーンももうここまできたら、大変だけどやるしかないという状況ですし。第10話の試合については、早い卓球を意識しました。ただアニメで早くみせようとすると、実際よりも速く描かないとそう見えないんですよ。それで何カットかは、ものすごく速いストロークを入れました。スマイルのセリフのところに鼻歌も敷いて、その後オオルタイチさんのヒーローのテーマを持ってくるのは最初から決めていて、これで完璧と思ってやってました。
――ドラゴン側にドラマの比重がありますよね。視点がありますよね。
湯浅 ドラゴンって人が、何から解放されて、何がヒーローなのかをはっきり描くことが第10話の目標でした。実写映画版はペコに感情移入させて、ペコと一緒に気持ちがぐっと入っていって勝つって感じに構成してあったんですけれど、アニメ版はやっぱり敗者の視点だろうなって。それで、ドラゴンから見たペコを描くのがいいだろうなと思ったので。音楽も前半はドラゴン寄りでべったりやって、後半はペコ寄りでベタッと流していくプランをたてました。演出してくれたウニョンさんもすごく頑張って、時間のない中で絵をたくさん描いてましたね。ドラゴンなんかは、結構ウニョンさんのタッチが入ってます。あとだんだん色が抜けて白い世界になっていくといのも手間がかかる要素でしたけど、うまくやってくれました。
――ウニョンさんとはいろいろ一緒にやられていますが、やりやすいのはどこですか?
湯浅 合っているところはやりやすいですね。あのパース感とか絵の感覚は近いですね。一緒に仕事している中で一番近いくらい。でも、合ってないところは、どうしようもないくらい違う(笑)。彼女も主張が強いですから。だから、やりやすいだけじゃないんですけれど、今回もいろんなことを考えていろいろやってくれていました。
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第11話血は鉄の味がする

――サブタイトルの言葉は第1話から出ているセリフです。
湯浅 原作の最初から言われていた「血は鉄の味がする」の意味を自分なりにずっと考えていたんです。初見では分からなくて混乱しました。それがやっているうちにだんだんはっきりしてきて、『ピンポン』という物語はロボットになったスマイルが、血を取り戻す話なんだろうっていうことが見えてきました。あのセリフは、ロボットだと思っていても、本当は血が通っているんだよ、血だって鉄の味がするんだから皆と同じだよ、っていうセリフなんだって。ロボットになったスマイルがペコに救済されるというか、ペコは救済のつもりはないんだけれど、本人が楽しんでやっていることが、スマイルのいろんなものを解放するというか。
――第10話、第11話でペコがなぜヒーローなのか具体的に描かれます。
湯浅 ペコは遊びでやってるのに、めちゃくちゃ強い。それが彼がヒーローたる由縁だろうと思います。ペコはもともと、いいやつなんですよね。子供のころはいじめっ子とかをたしなめたり。正義の人なんですよね、どこか。高校生ぐらいになるとあんまりそうでもないけれど(笑)。
――『手のひらを太陽に』はとても印象的でした。
湯浅 第11話がドラマ的に一番盛り上がるのはやっとペコと出会って、握手して、一発目が決まるところまでなんですよ。そこでもう実質的にお話は終わっているんですよね。だからあとは月本の気持ちに乗せて一曲『手のひらを太陽に』を流して締めくくろうと考えました。このアイデアは松本さんから褒められましたね。「それはいいと思います」って。月本の血の話にもぴったり合うような歌詞だし、意味にも広がりがあるし、皆知ってる歌だし。原作ではクライマックスで子供時代が出てくるのはペコとスマイルとアクマなんですが、ほかのキャラクターもいたほうがいいだろうと、アニメではメインキャラクター全員の子供時代を登場させました。
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